New Album『よっちゃばれ』スペシャルインタビュー

――まず、ニューアルバム『よっちゃばれ』が完成しての手応えを教えてください。

栃木 曲の世界観の振り幅は広いんですけど、メロディや入りやすさという点では統一感があって、通して聴くと、大きな山の麓から山の頂まで登って、また下りたような感覚になれる作品、色んな世界を味わえる作品になったんじゃないかと思います。

山川 作っている途中では、色々なタイプの曲が出来てきていたので、アルバムになったらどうなるんだろうって思ったんですけど、一気に駆け抜けるように聴けるし、統一感もあるし、最後まで聴いたら、また繰り返し何度も聴きたくなる作品になったなって。いろんなグルーヴがあるんですけど、自分の血の中にあるという感じがして、聴いてて、すごく興奮するんですよ。これはすごいのが出来たなって感じました。

小林 やっぱりこの4人でこの時代でだからこそ出来た作品なんじゃないですかね。デビューする前からいろんな音楽を聴いてきて、デビューしてから20年やってきて、いろんなことがミックスされたから、こういうグルーヴになったんだと思います。

宮沢 今までにやったことのないようなチャレンジをたくさんしたレコーディングだったんですよ。そういう意味ではとてもTHE BOOMらしい作品なのかなと。もともと何でもやっちゃうのがTHE BOOMなわけですから(笑)。ただ、栃木さんが言ったように、一本筋が通っているのは20年以上やってきた我々の芯の部分があるからだろうし。この作品作りを通して今のTHE BOOMらしさはこれだと確信できました。これまで世界各地を旅をしてきて、旅先で出会ったものと自分たちとのフュージョンによって音楽を作ってきましたが、今回は旅先ではなくて、自分たちの生まれたこの地に立って、しっかり音楽を作れたという実感がありますね。


――これまでとは意識が違うところもあるわけですね。

宮沢 当たり前のことをしてるという言い方もできると思うんですよ。自分たちが聴いてきたものを消化して、2011年の今の自分たちのサウンドとして発表するっていうことだから。かつては日本の土壌から出てきた伝統的な音楽、演歌や歌謡曲、流行歌などをみんなで共有していたわけですが、細分化されていく過程で、バブルの始まりぐらいから隅に追いやられてしまった。"日本的なものはダサいんじゃないか"という風潮は音楽だけに限らず、文化全般に渡ってあったと思うんですよ。僕もしばらくアメリカ、イギリス、サードワールドの音楽を中心に聴いてきましたけど、自分が生まれ育ってきた土壌に根ざした音楽をTHE BOOMが料理していくのは、ある意味、とても当たり前のことなのかなって。なので、制作にあたって奇を衒ったわけではなく、真正面から2011年の日本の音楽を作ったんだって言い切れます。


――でもその当たり前のことを誰もやってこなかったわけで、未知の領域での創作・制作はかな り大変だったのではないですか?

栃木 自分たちの好きな音を目指す、いい音を目指すということは昔からやってきたことでもあって。もちろん試行錯誤することもたくさんありました。あっちの道に行って、迷ったりすることもあった。でもそういう時には戻ってきて、また違う道を行くことが出来るようになったのかなって思いました。


――そこにもバンドの成長、進化が表れているのではないですか。

宮沢 やりたいことが明確にありましたしね。デモデモテープの段階で、2曲を除いて8割方のアレンジが出来ていたので、みんながそれを聴いて、自分が解釈する日本のグルーヴでそれぞれが演奏していく。そこでどうTHE BOOMらしさを出すか、自分らしさを出していくかがテーマという。


――日本的なメロディというのがひとつの特徴だと思うのですが、作曲する上ではどんなことをポイントにしたのですか?

宮沢 いつもは誰も聴いたことがないような感じというのが作曲のポイントなんですよ。でも今回はそうじゃなくて、自分の中にあるもの、根の張った根野菜を引っ張り出すみたいな感じでした。網を持って採集するというよりも、中にあるものを掘り起こす感じ。メロディ、歌詞ともにこれしかないだろうというのがふっと出てきたら、引っ張り出していく。それは楽しい作業でもありました。


――日本的な要素を持ったそれらの歌をバンドサウンドにしていく上ではどんなことを心がけましたか?

栃木 たとえば、「情ションガイネ」みたいな音頭って、自分がいろんなところで聴いてきたものではあるんですよ。でもリズムとしては新しいと言えば新しいものでもあるわけで。自分の中にあるものと新しいものとの兼ね合いをどうするか、どう融合して今の自分たちの新しい音楽として提示するか。そこは気を遣いました。

山川 「情ションガイネ」なんか、日本人なら誰でも感じられるグルーヴなんですが、外国の人は逆に難しく感じたりすると思うんですよ。僕の場合は黒人のグルーヴを日本人には出せないというコンプレックスから始まって一周して、もともと自分にある日本のグルーヴを自分達のバンドの音として残せたことが単純にうれしいですね。


――1曲目の「赤春 ~せきしゅん~」はこのアルバムを象徴するナンバーと言えそうですが、どんなところから生まれたんですか?

宮沢 みんなで一緒に口ずさめる歌ということで作っていきました。日本の歌謡曲って、みんなで共有できる良さがあったわけだから、その良さを出したいなって。


――日本的な要素だけでなく、サンバやフュージョン、様々な要素が入っていて、THE BOOMの音楽の軌跡が凝縮されている曲という印象も受けました。

宮沢 デモの段階で、ドラムが中心になる曲、サンバ的な要素を盛り込んだ曲にしようとは思って作ってたんですけど、出来上がってみたら、ポップスやロックの要素もあって、我々のいろんな要素が詰まった曲になったので、これはぜひ1曲目に聴いてもらおうと思ったんですよ。


――過去を振り返るだけでなく、先に進んでいこうとする意志が伝わってくるところも素晴らしいですね。

宮沢 昔、佐野元春さんが「ロックとは約束の音楽だ」って言ってて、そうだなと思ったことがあるんですが、自分の中では宣言するものがロックなんですよ。で、宣言した以上は自分が到達していく様も見せていくということだろうなって。20年以上やってきて、今宣言することって何だろうっていうことプラス、同時代を生きているみんなへのメッセージをこの曲に込めました。


――演奏はどんなイメージで?

栃木 サンバの楽器がたくさん入っていて、明るいイメージもあったので、みんなが楽しんでいる風景が見えてくるようなリズムをイメージして演奏しました。

山川 パーカッションが入るということもあったので、ベースはあまりサンバ寄りに行かないように、ということは意識しました。みんながそっちに行っちゃうと、その色が濃くなりすぎるので、もうちょっと歌寄り、日本寄りという。メロディがグルーヴを呼ぶんで、そこに寄っていく感じ。どの曲もそうなんですが、あんばいを考えて、微調整しながらやっていきました。

宮沢 この曲では服部正美さんという素晴らしいパーカッショニストに参加してもらったんですが、これはとっても意味があることで。服部さんがいらっしゃらなかったら、ここまで日本のサンバは進化してないだろうというぐらい草分け的な存在で、THE BOOMともレコーディングで交流があり、僕と一緒にバンドを作っていた時期もあったので、服部さんを呼ぶことが僕の中で1つのテーマだったんです。参加してもらうことで、パワーも出てくるし、意味も出てくるし、説得力が出てくる。有沢健夫さんというトランペットの人に参加してもらったことも意味がありました。有沢さんは初期THE BOOMのキーマンでもあったんですが、最近、一緒にやってなかったので、声をかけたら、やるよって言ってくれて。今回はミュージシャンの参加の仕方にも意味がありますね。


――「流れ 流されて...」からも日本的なメロディ、それも生まれ育った土地の匂いのするメロディという印象を受けました。

宮沢 色んな土地を旅して、色々な人と出会ったということがあったからこそ、このメロディが出て来たと思うんですよ。もしずっと日本にいて、何も見ずにいたら、作れなかった。いろんなシーンを見てきたからこそのメロディなので、とっても気に入っています。


――バンドサウンドも実に表情豊かですよね。

栃木 前半はすごく日本的で、日本の情景が思い浮かんだりするんですが、リズムが入ってから、フォルクローレ的なものも入ってきて、最後はより力強いものになっていく。1曲の中にいろんな要素が入っていて、色んな世界観を見せていく曲になりましたね。

山川 この曲が一番遠慮なくグルーヴした感じですね。押さえてない感じ。演奏していてかなり高揚しました。


――この曲の歌詞からは、ここまで旅してきた感覚も伝わってきました。

宮沢 作っていても、いろんな人の顔が思い浮かんできました。お世話になった人とか、素敵な歌を聴かせてくれた人とか。自分の内なる土の中から引っぱってきたという言い方もできるし、南米にいる人、沖縄にいる人、たくさんの出会いから生まれたとも言える。内なる世界だけを見てきたら、こういう歌は多分、できなかっただろうし、自分が今いるのはいろんな人のおかげだなと思います。


――「情ションガイネ」も新鮮に響いてきました。

宮沢 これは詞も曲も早かったですね。イントロからもうバンバン出来てきて、作ってて、楽しかったです。これもライヴでは盛り上がりますね。来た人たちが開放されて、自然と体が動く曲になってくれるんじゃないかな。


――今回はコラボレーション曲もたくさんあります。「忘んなよ島ぬくとぅ」は南こうせつさんが作曲、宮沢さんが作詞した作品ですが、このコラボレーションはどんなところから実現したのですか?

宮沢 こうせつさんも沖縄が大好きなので、沖縄で歌える歌を作りたいってことで、作詞をしました。こうせつさんはこうせつさんのCDで、我々は我々で発表するってことになりました。これはなかなかないことだと思います。


――今のリアルなメッセージがこめられた歌としても、響いてくる曲だなと思いました。

宮沢 今現在の音楽ということは意識してますね。


――演奏する上ではどんなことを?

小林 細かいところはサポートの町田くんと話ながら詰めていきました。演奏してて、とにかく楽しい曲でした。

山川 演奏に関しては基本はレゲエなんですけど、沖縄のグルーヴの感じもある。その辺の微妙な感覚は長くやってるとだんだんわかってくるんですよ。ロックバンドが表現する沖縄のグルーヴ感みたいなものを出せたんじゃないかと思います。

栃木 「情ションガイネ」も「忘んなよ島ぬくとぅ」も同じくレゲエで弾んでるんですけど、音頭と沖縄の音楽という違いがあるので、その微妙な違いを楽しんでいただけたら。この流れ、個人的にもすごく好きですね。自分の街の盆踊りから一気に沖縄に飛んでいくようなところがすごくいいなと。


――シングルとして先にリリースされた「蒼い夕陽」はアルバムの中で聴くと、印象がちょっと変わりますね。

宮沢 他の曲と並べて聴くと、モダンな曲だなと思いました。レトロモダン。洋風だな、オムライスとかナポリタンとか、洋食が出てきたなって(笑)。

栃木 ちょっと洋食なおかずが出てきた感じですね。日本の歌謡曲が昔持っていた感覚、その頃のアメリカで流行っていたものをうまく日本の任侠とかに絡めて作ったという感じというか。


――4月に公開された映画『津軽百年食堂』のテーマ曲でもある「暁月夜 ~あかつきづくよ~」は石川さゆりさんとのデュエット曲でもあります。このコラボレーションはどんなきっかけから?

宮沢 石川さゆりさんは日本の歌を最も日本人らしく、最も素晴らしく歌う歌手だと思います。学習量、勉強量は想像を絶するし、日本の歌を残そうという使命感を持ってやっていらっしゃる。そういう素晴らしい大先輩とデュエットしたいという思いがあって。引き受けていただくには、よっぽどいい歌を作らないといけないだろうけれど、高いハードルを設定するのはいいことだなと思って作って、「暁月夜 ~あかつきづくよ~」ともう1曲、聴いていただいたんですが、幸運なことに、この「暁月夜」を気に入っていただけて。石川さんとデュエットできることはとてもうれしかったですね。


――それぞれの声の存在感も発揮されているし、混じり合う化学変化もある。デュエットの魅力が詰まった曲ですね。

宮沢 最近、デュエットって少ないですからね。ラップが入ってくるものや、フィーチャリングと呼ばれるものは結構あるけれど、シンプルなものはあんまりない。かつての日本にはデュエットの名曲がいっぱいあったし、外国にもいっぱいあるんですよ。ラテン音楽の世界ではデュエットはひとつの確立されたパターンだし。ドシッと腰を据えて、男女で歌える歌を発表したかったですが、いい形で出来ましたね。

栃木 イントロに入って、おおっ!っとなって、歌が入って、おおっ!となって、石川さんの歌が入って、またおおっ!って(笑)。その展開する感じが気に入ってます。


――THE BOOMの歌に石川さゆりさんの歌声が入っているというのはどんな感じですか?

小林 石川さんが歌っていらっしゃるというだけで感動でしたね。

宮沢 ユウちゃんとの「蒼い夕陽」もそうなんですけど、ふたりで高まっていくことで、ひとりでは到達できないところまで行けたという実感はありますよね。


――「愛という言葉」はさりげない曲でありながら、表現力の豊かさ、深みを感じる曲ですね。

宮沢 メロディと言葉の作り方も実はすごく凝っていて。「情ションガイネ」は暖かいところで作ったからああなったんですけど、この曲はものすごい寒いところで雪を見ながら作ったもんですから、こうなりました。僕はほっとくとつい暗い方向に行ってしまう傾向があるので気をつけています。

栃木 この曲はクールに熱くなっていく青い炎みたいなイメージですよね。淡々とやっている中からせつなさがにじんでくる。

小林 アルペジオを弾いていて、どんどん悲しくなってきて、困っちゃっいましたね。栃木さんのクールに熱くなるってそういうことなのかなと思いました。


――「歌いたくない夜」のメロディは崎枝将人さんとの共作ですが、このコラボレーションはどんなきっかけから?

宮沢 詞は去年の早い時期に出来ていたんですよ。で、曲を付けようかなと思ってたんだけど、自分で付けると内向きになる予感がしていて、そうじゃないもっと広い歌を作れる人間に作ってもらおうかなと思って。マストはすごく才能があって、歌もギターもうまいし、曲も作れるし、いい心を持った人間なので、彼に頼んでみようかなと。それで「ちょっと曲書いてみない?」ってお願いしたら、とてもナチュラルないい曲を書いてくれた。それを僕がまたちょっといじって、こういう形になりました。


――ちょっとアメリカン・ルーツ・ミュージック的な感覚があるところも新鮮でした。

宮沢 アメリカの本質を日本人がつかまえようとしていた時代のサウンドという感じですよね。日本から見てたアメリカみたいなところをやると、かえって日本的な音楽になるんじゃないかなって。


――「月光」はゆったりとしたグルーヴが気持ちいい曲ですが、これはどんなところから生まれたのですか?

宮沢 これもサラッと出来たんですよ。日本の歌謡曲や演歌が自分の根っこの部分にあるのと同時に、ロックのレコードを買ってきて、かっこいいよねって聴いてきた音楽体験も自分の根っこにあるわけで。この曲は日本的なものとかそういうことも考えずに、自分のルーツを振り返っていって、自然に出来た曲です。


――バンドの演奏も表情豊かですが、どんな意識で演奏したのですか?

栃木 透明感のある美しいバラードにしたいと思っていて。せつなく盛り上がっていくということをリズムの中で表現できたらと思って、音も作っていきました。ライヴで演奏した時に、自分でもグッとこれるものにしたいなって。


――最後の「ゆっくりおいで」はとてもパーソナルな歌でありつつ、普遍的な歌で。深い余韻が残りました。

宮沢 別れても完全に何かがなくなるものではないと思うんですよ。絆であるとか、そういうものは断ち切ろうとしても切れない。だから出会いはあるけど、別れっていう概念はないんじゃないかなって。そんなことを歌にしました。


――アルバムタイトルの『よっちゃばれ』は甲州弁で"寄っておいで"という意味があるそうですが、この言葉をタイトルにしたのは?

宮沢 理屈じゃなく、景気のいい言葉がいいなって思っていたんですよ。栃木さんはともかくとして(笑)、我々3人のふるさとの言葉なので、いいかなと。いろいろな意味で、我々が今やろうとしていることを代弁してくれる言葉でもあるし、明るいし、弾けているし、ファンキーだし、いいじゃないですかね(笑)。

――山川さん、小林さんにとってもなじみのある言葉なんですよね。

山川 甲州弁って、世間的にはあまり認知されていないので、うれしいですね。ちょっとだけ恥ずかしさもありつつ、でもいいじゃないかという開き直った感覚もありつつ(笑)。、単純にこの言葉は気持ちいいし、すかっとしていますよね。

小林 響きがいいと思うんですよ。自分では標準語だと思ってしゃべっていたら、意味がわかんないって言われたこともありました。昔は恥ずかしかったりしていたんですけど、齢を取るとむしろ大事にしなきゃなと思うようになってきて。言葉的にも音楽的にも作品と繋がっているタイトルになったと思っています。


――栃木さんだけはなじみのない言葉ということになりますが。

栃木 全部ひらがなのタイトルって、いいなって思ったんですよ。THE BOOMでもあまりなかった気がするし。ちっちゃい「っ」とか「ゃ」とかが日本っぽい感じがするし、目立つし、あんまり見たことないし、いいんじゃないですか。


――『よっちゃばれ』って、ライブに向けてもぴったりな言葉ですよね。

栃木 そうですね。毎度のことですけど、ライヴをやることで、曲が本当に持っているものが僕らにもわかるんですよ。ツアー全体を通して、ひとつの表情が見えてくるということもありますけど、その土地その土地の独特の空気がそれぞれの会場で反映される部分もあるので、1個1個のライヴがすごく楽しみですね。

山川 曲って、人前でやって初めて、どんな曲だったかがわかるんですよ。「蒼い夕陽」も去年の夏からライヴでやってみて、初めて聴いてもノレる曲なんだなって、実感したんですけど、今回のアルバムには他にもそういう曲があると思うので、会場がどんな雰囲気になるのか、今からすごい楽しみですね。

小林 今までとはまた違うライヴになりそうな気がしていて、それを肌で感じるのが楽しみです。

宮沢 きっとこの新作を聴いて、12月の発売記念ライブにも相当期待してもらえると思うんですよ。その期待を裏切らないように、というよりも、むしろ逆にえっ!?って驚くぐらいのもの、事前には想像がつかないようなライヴをやりたいですね。思いっ切り、振り切ってやっていきたい。この新作はそういう姿勢がふさわしい作品だと思います。